Netflix『ペーパー・ハウス』から学ぶ準備万全の哲学 失敗を回避する プランABC
kuangkuang xiaによる写真: https://www.pexels.com/ja-jp/photo/36020246/
「明朝から撮影だけど、雨みたいだから、太陽に晴れるように交渉しとけ」
映像ディレクターからADだった私に、そう指示が飛んできた。
無茶苦茶な話だ。天気に交渉などできない。
しかし、この言葉の本当の意味はそこではない。
「天気がどうであれ、撮影を遂行する体制を整えろ」ということだ。
インターネットが普及する前の話で、私は気象庁に連絡して最新情報を得る。地元の漁師に確認する。雨でもできる撮影プランを策定する。プランA、B、Cを用意して、AがダメならすぐにBへ、BがダメならCへと切り替える。
この「準備万全で目的を遂行する」という姿勢を、犯罪ドラマの傑作から見事に学べる作品がある。
Netflixの「ペーパー・ハウス」だ。
「ペーパー・ハウス」とはどんな作品か
2017年にスペインで制作されて、Netflixが全世界に配信したことで爆発的ヒットとなったクライム・ドラマだ。
第46回国際エミー賞で最優秀ドラマ・シリーズを受賞。全5シーズンで完結している。
あらすじはこうだ。「教授」と名乗る男が、特殊なスキルを持つ8人の強盗チームを結成。
スペイン王立造幣局に人質67人を取って立てこもり、24億ユーロを奪う計画を実行する内容だ。
単なる強盗アクションではない。
計画と裏切り、人質との心理戦、警察との頭脳戦が絡み合う、緻密なサスペンス劇だ。
そしてその核心にあるのが、首謀者「教授」の圧倒的な準備力と臨機応変さである。
教授の「準備」は次元が違う
この作品を観て最初に衝撃を受けるのは、首謀者、教授の用意周到さ。
強盗を決行する前に、教授はチームメンバーと5ヶ月間の合宿を行い、作戦を徹底的に叩き込む。造幣局の模型を紙で作り、立てこもりのシミュレーションを何度も繰り返す。
「ペーパー・ハウス(紙の家)」というタイトル自体が、この紙で作られた造幣局の模型に由来している。
さらに教授が用意するのは、単一の計画ではない。
あらゆる「想定外」に対して、事前に対応策を準備している。
警察がこう動いたら、メディアにこう情報を流す。人質がパニックになったら、チームがこう対応する。
作戦が崩れたら、別ルートで目的を遂行する。どんな状況になっても「次の手」がすでに用意されている。
プランA、B、C――具体的な場面で見る「準備の深さ」
※以下はネタバレを避けて、教授の準備力を示す場面を紹介する。
■ メディアを使った世論操作
強盗が始まると、警察は当然包囲し、プレッシャーをかけてくる。教授はこれを想定して、事前にメディア戦略を準備していた。
赤いつなぎに「ダリのお面」というビジュアルが世界中に拡散され、強盗団が「反体制のヒーロー」として報道されるよう仕掛ける。世論を味方につけることで、警察の強硬策を封じる。
これは単なる犯罪計画ではなく、情報戦・広報戦まで含んだ多岐にわたる計画だ。
■ 交渉担当を崩す心理作戦
警察側の交渉担当者の人物像・心理・弱点を、教授は事前に徹底的に調べている。
相手が何に反応するか、どんな言葉が有効かを想定した上で交渉の場に臨む。
「準備なしの交渉」と「相手を知り尽くした上での交渉」では、まったく次元が異なる。
■ 計画が崩れたときの「即興」も、実は準備の産物
作中では、想定外のアクシデントが何度も起きる。
しかし教授が驚くべきは、その場での「臨機応変」が実は準備の延長線上にある点だ。あらゆる事態をシミュレーションしているから、突発的な出来事にも冷静に対処できる。
準備のない人間にとっての「想定外」が、準備をした人間には「想定内の一つ」になる。
私のAD時代と教授に共通するもの
冒頭のディレクターの言葉に戻る。「太陽に晴れるよう交渉しとけ」は、要するにこういうことだ。
- プランA(晴れた場合の撮影プラン)
- プランB(曇りや小雨の場合の代替プラン)
- プランC(完全な雨天中止・翌日に延期した場合の手配)
天気はコントロールできない。しかしどの天気になっても対応できる状態を作ることはできる。教授も同じだ。警察の動きはコントロールできない。しかしどう動かれても対処できる準備をすることはできる。
「準備」とは、「最善の結果」を想定することではない。
「あらゆる状況」を想定することだ。
アイデアアクション的思考――準備を「行動の設計」に変える
① 目的を明確にする
教授が絶対にブレないのは、「目的の達成」だ。手段は変わっても、目的は変わらない。準備とは、目的に向かうための複数の道を用意することだ。まず「何を達成したいか」を明確にする。そこから逆算して、プランを設計する。
② 想定外を「想定内」にする
「こうなったらどうするか」を事前に考える習慣が、準備力を高める。会議でこう反論されたら? プレゼンで質問が来たら? 締め切りに間に合わなかったら? シナリオを複数用意しておくだけで、本番での対応の質が劇的に変わる。
③ プランAが崩れたとき、すぐプランBへ切り替える
準備していても、計画通りに進まないことはある。そのとき、プランAの失敗を嘆く時間が長いほど、次の手が遅れる。教授が強い理由のひとつは、「切り替えの速さ」だ。プランBへの移行を躊躇しない。準備とは、切り替えを迷わずできるようにするための設計だ。
今日からできる実践ワーク
明日の仕事、または直近の大事な場面を一つ思い浮かべてほしい。そして次の問いに答えてみてほしい。
- 目標は何か?(手段ではなく、最終的に達成したいことは?)
- プランAは何か?(理想通りに進んだ場合の行動)
- プランBは何か?(想定外が起きたとき、次にどう動くか)
- 絶対に避けたい最悪のシナリオは何か?(対策を練っておく)
この4つを書き出すだけで、あなたの「準備」は教授に一歩近づく。
まとめ
「ペーパー・ハウス」の教授が私たちに教えてくれることは、犯罪の手口ではない。どんな状況でも目的を遂行するための、準備と思考の姿勢だ。
天気はコントロールできない。警察もコントロールできない。市場も、他人も、コントロールできないことだらけだ。しかし「自分がどう備えるか」はコントロールできる。
プランA、B、Cを用意する。想定外を想定内にする。切り替えを躊躇しない。
このシンプルな準備の哲学が、仕事でも人生でも、局面を切り拓く力になる。
まだ観ていない方は、ぜひ今週末に第1話を観てほしい。教授の準備力の片鱗を見るだけで、明日からの仕事への向き合い方が変わるはずだ。
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